【陽だまり】
From "MUVLUV ALTERNATIVE" (C)2006 age






 街行く人の服装も軽くなり始め、木々生い茂る場所では桜も満開。
 季節は春真っ盛り。しかも天気は快晴、照らす太陽の光は暖かくすごしやすい。
 このような陽気にあてられればそれは眠気も誘うというもの。

「とはいっても、コレはコレで非常に珍しい光景ではある……か」

 食事も終わり気も緩むであろう日曜日の昼下がり。
 暖かな日差しの差す白銀家の縁側に、ふわり舞い降りたか眠り姫。
 鍛え上げられ引き締まった見事なプロポーションを誇る彼女の、男としては目を向けずには
いられないその胸が浅い呼吸に合わせて静かに上下し、普段はその立場故か凛々しさの先に立
つ表情は、やわらかい、歳相応の少女のモノとなっている。
 どんな時でもあまり気を抜くことの無い彼女の、これほど無防備な姿はハッキリ言って珍しい。

「考えてみりゃ、冥夜の寝顔って見たことなかったな……」

 毎日ほぼ例外なく自分より先に起きていて、武自身はいつも起こされる側である。
 今まで気にしたこともなかったが、自分の隣でこんなあどけない顔で眠っていたのかと思うと
少々こそばゆくも感じる。
 まぁ、もっと恥ずかしい表情は毎晩の様に見ているわけではあるが。

「って、何を思い出してんだ俺は……」

 もう冥夜とそういう関係になってそれなりの時間がたつというのに、それでもやはりいざ思い
返すとまだまだ気恥ずかしい。
 思わず赤面しそうになり頭を振って思考を追い出すも、ふと目にとまる愛する少女の寝顔にま
たしても記憶がリフレイン。この気高い少女にあんな顔やこんな顔をさせているかと思うとなん
ともヘソの裏側がむずむずしてくる。
さらに力なく投げ出されたその肢体が目に入ってしまい、それを自分があんな風にしたりこんな
風にしたりしてるのか、と今度は違うところに血が集まりそうになってくる。
ああ、悲しきカナ思春期少年。それが若さというものか。

「んっんんっ、ごほん。……さて、とにかくこのままにしておいていいものか……」

 なにぶん毎日の学業に重ねて、御剣家次期党首候補としての責務も勤めなければならない彼女である。
 双子の姉も色々助けてくれているとはいえ、武と二人でいる時間を作るためもあって何かと無理をしているのだろう。
 疲れが溜まっているとしても不思議はまったく無いわけで、そのうえ昨夜は昨夜で……

「ええい! だから思い出すなっちゅうに! ……はぁ、とりあえずベッドに連れていくべきか……」

 いくら良い陽気とはいえ、このままココで寝かせておいていいとも思えない。そっと近づき、抱き上げようと腕を
伸ばす。すると、ふわっと鼻をくすぐるいい香り。
 香水や化粧品の類ではない、自然に香ってくる彼女自身の香り。それは武自身をとろけさせるには十分すぎる
破壊力を持つ。
 そして、近づいたのだから当然彼女の寝顔も近くなるわけで……
 血筋のなせる芸術なのか、世に並ぶ美人と呼ばれる女性を集めた中に入れてもなお、美人と呼んで差し支えない
であろうその端正な顔。日に当たって火照ったか、ほんのり赤い頬。そしてうっすらと開かれた薄桃色の唇……

「くっ……耐えろ……耐えるんだ……ここで狼になっちまったら、俺おわってるぞ」

 寝ているときまで自分を挑発してくるとは……まったくもって罪な娘である。

「しかし……据え膳喰わぬは……」

 弱い!弱きかな青少年! 若きリビドーを抑えるのはかくも難しいことなのだね。
 ちなみに今の状況は据え膳とはちがうぞ。

「………」

 そうっと冥夜の唇に自分の唇を近づけていく。
 キスなんてすでに何回重ねたかわかったものではないが、大抵いつも冥夜の方からねだられてすることが
ほとんどだし、しかもコレは不意打ちというか寝込みを襲うというか……必要以上に緊張するわけで。

「ん……うん……」

 そんな時に身じろぎなんてされようものなら、そりゃ固まってしまう。
 そして……

「ん……」

 ぐいっ

「お?」

 ぎゅう

「おお?」

 人は眠っている時に無意識にぬくもりを求めるものなのか。いや、実はこれが彼女の本質の一端なのかも
しれない。
 ―――――かくして白銀武抱きまくらの完成。

「すぅ……」

「…………」

 こんな風にされてうれしくないかと聞かれれば、そりゃうれしくない訳が無いわけで。
 何度も直に触ったことがあるとはいえ、抱きついていることでその二つのふくらみが自分の胸板に押し付け
られる感触は凶器以外の何者でもなく、また、首筋にかかる吐息がさらに武の理性を刺激する。くぅ〜くすぐってぇ!!

「しかし……コレじゃ動けんな……」

 何とか理性を落ち着けつつ状況を確認する。何とか引き剥がして……「んん…タケルゥ…」―――って、言ってる
そばから足を絡めてくるんじゃない!
 
 頬と頬、胸と胸、太腿と太腿。完全にホールドされてしまいました。

 仕方ない……無理に引き剥がして起こしてしまうのも忍びないし、このまま一緒に昼寝もいいか……そう考えた矢先。

「タケル様? こちらにおいでですか……あら?」

 冥夜を起こさぬようそっと首をねじって振り返ってみれば、目の前で自分に抱きついて眠っている少女と瓜二つ
の少女が立っている。もう一人の御剣家次期頭首候補にして冥夜の双子の姉、御剣悠陽その人である。
 
「ゆ、悠陽さん……ど、ども……」

「あら……まぁ……これは、お邪魔してしまいましたでしょうか」

 武を探してやってきたようだが、少々困惑している様子。まぁ、探してた相手を見つけてみれば、自分の妹と抱き
合ってたとなれば当然だよね。

「ふむ……タケル様? いくら想い人同士とはいえ、時と場所は選んで頂かなければこまります」

 どうやら冥夜の様子を見て事情を察してきたのか、いたずらな微笑を浮かべて言う悠陽様。
 その背後に黒い羽ととがった尻尾が見え隠れしてる気がするのは気のせいではあるまい。南無、武。

「いや、コレはその!……そういうのではなくてですネっ!」

「それに、仲間はずれは少々ひどいのではありませんか?」

「へ?」

 つつつっとタケル達のそばまで歩み寄ってきてその背後にぽてっと座り込む悠陽様。そのまま横に倒れこみ武の
背中に自らの体を密着させてくる。サンドイッチかチクショウ!ウラヤマシイネシロガネタケル!

「あ、あの……悠陽さん……?」

「私も少々眠気がさしてまいりました。ご一緒させてくださいませ」

「え"……」

 背後から武にぎゅっと抱きついてくる悠陽様。こちらは直接見たことも触ったこともないが、妹より少しばかり
小ぶりか?と思えるふくらみが背中に押し付けられる。ちなみにそれ、わざと押し付けてますよね?
 胸板と背中でつぶれる至宝の感触は、此の世に現界した天国なのか地獄なのか。う〜ん紙一重?

「や、あの……なにもそんなに抱きつかなくても……」

「ああ……人のぬくもりというものはとても心の安らぐものですね……」

「聞いちゃいねぇし」

 嘆くなシロガネタケル。悠陽様の行動を止められる人なんて、片手で数えられるほどしかいないのが現状だ。
 誰と誰のことかはご想像にお任せする。

「う……ん……」

 すぐ傍でこれだけごそごそとやっていれば、いかな眠り姫といえど目を覚まそうというもの。
 うっすらとその目を開け、武の首元から頭を起こす。

「ごめん……起こしちまったか?」

 冥夜はまだ眠たそうな顔のままあたりを見回し、武の顔を間近に見つけると、

「ん……タケル〜……」

 甘えたような顔で、声で、いきなりのキスをしてきた。
 ちゅっちゅっと小鳥がついばむようなキス。
 
「ふふ……タケル……」

 そして驚きに固まっている武の懐に再び顔をうずめ、幾度かスリスリとほお擦りするようにしてポジションを固めると
ふたたび眠りにつこうとする。
 いや、その……男としてこんなに甘えられるのはすごくうれしい、と思う……のだが、タイミングが悪いだろう……
背後にいる悠陽様の発するオーラが背中に刺さって痛い。非常〜〜〜〜に痛い。
 その顔に浮かんでいるのは怒り顔ではないだろう。モチロン悲しい顔なんかであろうはずも無い。……おそらくは笑顔。
そう、笑顔。ただ、その笑顔が果てしなく恐ろしいのだ。

「あ、あああ!あの、冥夜さん!?」

「ん……なんだ……? タケル……」

 幸せそうに武の胸に顔をうずめたまま、甘い声で答えてくる。おもわずぎゅっと思いっきり抱きしめたい衝動にかられ
るが、なんとか押さえ込んで我慢する。今ココでそんなことしたら、背後の悠陽様に笑顔のまま「ふ〜ん、そういうこと
しちゃうんだ?」と刺されかねない気がするから。
 俺は冥夜を選んで正式に付き合っているんだから、恋人を抱きしめて何が悪い!――――――と、強く出るに出られない
のは、武が弱いのか周りが恐ろしいのか……合唱。

「と、とりあえず、まだ寝るならベッドに行って寝たほうが良いんじゃないカナ……?」

「ぅん……? よい……そなたの体は暖かく心地よい……とても、やすらぐ……それに……な」

 なんともむず痒くなってくるような台詞を言いながら、今度は武の首筋に軽く噛み付くようなキスをしてくる。

「二人きりの時くらい……ふふふ、戯れてもよかろぅ……?」

 いえ、二人ではないんですけどね。そうですか、気づいていらっしゃいませんか。
 
 しかし、寝ぼけているのか……ココまでおおっぴらに甘えてくる冥夜は初めてである。なんて言うか、発情期の
猫のようというか……そういえば女性の発情期は18歳前後である、なんて記事をどっかで読んだような気もする。
まさに真っ最中だったりするのだろうか。そう考えるとここ最近、タケルと結ばれてからの冥夜の積極的な態度も
納得いく気がする……っていうか悠陽さんっ! 抱きつく腕に力はいりすぎてませんかっ! なんかもう鯖折ってる感じ
なんですがっ!!

「め、冥夜?」

「うん……」

「いや、うんじゃなくてな? 俺の後ろをよ〜く見てみような?」

「んん……?」

 眠たそうな、まだ少しボーとしつつも不思議そうな顔でタケルの顔を見つめた後、その後ろへと視線を流す、と

「ん……? あ……? ねう……え!?」

 武の背後から、左半分だけ顔を出している笑顔の悠陽様とばっちり目が合い、強制的に覚醒へと導かれた模様。怖い
ね。本気で。
 ばばっと武から身を離し、あたふたと周囲を見回す。
 悠陽様もゆっくりと身を起こし、あきれたような拗ねたような表情で武に話し掛ける。

「あきれました……。タケル様 いつもこうなのですか?」

「あ、いえ……いつも起きるのは冥夜のほうが先なんで……」

「18年間一緒に育ってまいりましたが……まさか冥夜にこのような色ボケをかまされる日がこようとは思ってもいません
でした」

「い……色ボ……」

 がっくりとうなだれる冥夜。 orz
 だけど冥夜さん、悪いけど否定できません。

「ま、まぁ悠陽さん。 あまりいじめないでやってくださいよ、ね」

「あら、いじめてなどおりませんよ? ただ、少しあきれて……少し悔しくて……うらやましいだけ」

 なにやら妖艶なまなざしをタケルに向けてくる悠陽様。タケルの背中にぞくりと何かが走る。

「私だって、タケル様に甘えてみたいですもの……」

 言いつつ武にそっと身を寄せてくる悠陽様。ああ、二の腕にぴとって!ぴとーーって!

「な、姉上!?」

 漏らされた本音と、その行動に冥夜の顔が複雑な表情に変わる。
 元々同じ男性に思いを寄せていた身なのだ、その心境は自らも体験してきたもの。手に取るように理解できる。
 しかし、選ばれた者として、選ばれなかった者に同情を寄せることは、その者を貶めることに他ならない。
 ここで申し訳なく思ってはいけないのだ。

「な、なりませんぞ姉上! タケルは わ、私の……こ、恋人……ですゆえ!」

 冥夜も武の腕を取り、自分のほうへ引き寄せてむーっと悠陽をにらんでみせる。その顔は真っ赤ではあるが。
 
 妹の心の動きなど悠陽にはそれこそ手に取るように読める。元来冥夜は感情を隠すのがうまい方ではないし。
 そしてその反応に、悠陽は満足でもあった。

「しかし冥夜。 少しくらい分けてもらわねば割に合わぬと言うもの。 あてるだけあてて我慢しろと言うのも
虫が良すぎるのではありませんか?」

「そ、それとこれとは問題が違います!」

「妾の一人くらい殿方の甲斐性として受け止める度量をもつべきでありましょう?」

「む」

 マテ、冥夜。なぜそこで黙るのか? いいのか? それはアリだって言うのか? 

「はぁ……悠陽さん、とりあえず俺にそのつもりはないですから」

 冥夜の前に少し乗り出して、悠陽からさえぎるようにして告げる。

「あら。 つれないお言葉です、タケル様」

「タケル……」

 武の助け舟と、その言葉の内容にうれしさを隠せない冥夜。
 武の言葉に不満の声を上げつつも、どこかやさしい顔の悠陽。

「ふふ、仕方ありませんね。邪魔ものは退散するといたしましょう。それでは」

 そういい残し、そそくさと居間を後にする悠陽様。ドアをしめる時に少しだけこちらを振り返り、微笑み顔で会釈を
して去っていく。
 残った二人のあいだに吹くはなんともやるせない風。冥夜はまだタケルの腕を自分の懐に抱え込んだままだ。
 ちらりと武の方に目線を送ると、同じく冥夜の方に目を向けた武とばっちり目が合ってしまった。

「あ、その……なんだ、タケル?」

「ん? な、なんだ?」

「そなたに感謝を……ありがとう……」

「へ? なんだ突然。 何かしたか俺?」

 突然の謝辞にきょとんとする武。どこまで言っても朴念仁は朴念仁? さっき自分が言った言葉の意味なんて、意識し
てもいないのかしらね。

「先ほどの言葉、そなたが私だけを選んでくれたこと……それがうれしいのだ」

「え……あ、ああ……なるほど……」

 言われてようやく自分が言った台詞の意味を理解して、いまさら恥ずかしくなったりする。

「ふふふ……そなたらしいな……」

 抱えていた武の腕を放し、今度は武の懐にその身を預けてくる。
 武もそれを受け止め、冥夜の背中に手を回してぐっと抱き寄せる。

「ん……ふぅ……」

 なんともいえない甘い吐息を漏らす冥夜。そんなのっぴきならなくなりそうな声を出されたら、のっぴきならない状態になり
そうじゃないか!

「ご、ごめん。 力、強かったかな?」

「よい……」

 そして静寂……。しかし、そこにいやな雰囲気は無い。あたたかい、幸せな空気。穏やかに時計は時を刻む。
 なんとなしに冥夜の髪を梳いてみたりする。気持ちよさそうに目を閉じ、なすがままにまかせる冥夜。

「な、なぁ冥夜」

「うん、なんだ?」

「エーと……その……なんだ……」

「ん?」

 そっと顔を上げ、下から見上げる形で武と目を合わせる。
 武はきょろきょろと視線を彷徨わせる。

「なんだ? どうしたタケル?」

「いや……その……な」

「うん」

 どうしたのだろうと不思議な顔をする冥夜。

「えっと……キス……して、いいかな……って」

 武、顔真っ赤。
 一瞬、何を言われたのかわからずきょとんとした冥夜だったが、すぐに理解しこちらも顔が真っ赤になる。

「ば、ばか。 そのようなこと……いちいち聞くでない……」

「じゃ、じゃあ……いいか?」

「聞くなと言っておろうが、ばかっ。……そなたに求められて、断るわけが無かろう……」

「う、ういす……」

 そっと、冥夜の頬に手を添える。お互い真っ赤な顔のまましばらく見つめあい、やがて冥夜が目を閉じる。
 ゆっくり、やさしくその唇に自分の唇を重ねていく。

「ん……」

 冥夜から吐息が漏れる。
 最初は軽くついばむキス。段々深く、お互いの舌を絡めあうキスに進んでいく。

「ん……んん……ふ……タケルぅ……」

「冥夜……」

 もっと深く、もっと深くと求め合う二人。
 やがて、どちらからともなく唇を離す。二人のあいだにかかる銀の橋。

「こっから先は、また夜に、だな」

「ば、ばかものっ! なにを言いだす!」

「なんだよ〜。 基本的にはいつもお前の方から誘ってくるじゃないか」

「なぁっ!! ば、ばばっ ばばっ……」

「でっ あだだだ! や、すまん!落ち着け!冥夜!!」

 背中に両手の爪がめっさ食い込んでますっ!

「すいませんっ ごめんなさいっ だから、なっ?」

「まったく!……そなたはもう少しデリカシーと言うものを学べ!」

「って〜。 わかったよぅ、今夜はがんばるから……」

「―――――――――――ッ!!」

 バカは死んでも直らないんですよ、冥夜さん。
 
 バカップルの日は暮れて。
 どっとはらい。








―――と言うわけで、生まれて初めての文章ものです><
とにかく何となくノリだけで突っ走って書いてしまったので、なってない部分だらけだと思います。
しかも、書いててどうにも終わるそぶりが見えなかったので、途中で無理矢理ぶった切りました。
なんだかどっかで見た様な表現の羅列になっちゃってるみたいな気がしますが、偏に私の棚の狭さ故です^^;
絵とは表現の方向がまったく違うだけに、色々と難しいです。