【さびしんぼう】
From "MUVLUV ALTERNATIVE" (C)2006 age








〜国連軍横浜基地。PM10:30。

 国連軍衛士 御剣冥夜少尉は目的地に向かって宿舎の廊下を歩いていた。
 任官したことで多少の融通は認めてもらえるとはいえ、基本的には就寝時間は過ぎている。なので
少々急ぎ足になってしまうのは仕方の無いこと。まぁ、急ぎ足な理由はそれだけでもないのだが……。

「タケル、いるか? 私だ」

 目的の部屋の前につきノックをしながらたずねる。しかし、返事は返ってこない。

「タケル?」

 ドアを開けて部屋に入る。室内を見回すが、誰もいない。念のためシャワールームの方なども窺って
みるが、どうやら部屋の主は留守のようである。
 内心色々と心躍らせてただけに少々がっかりしてしまう。
 まぁ、特別約束してあったわけではないし、自分も就寝時間を過ぎて出歩いている身なので文句を言
えた義理ではないのだが。

「ふぅ……。こういうタイミングのはずし方はいかにもタケルらしいと言おうか……」

 力が入っていた肩を落として一人ごちる。
 何かと特殊な立場の男だけにあっちへ行ったりこっちへ行ったりと忙しいのは判っている。
 今だっておそらくは極秘任務の関係で香月博士のところにでも行っているのだろう。
 判ってはいるのだが、二人の時間を期待していた分、切ない気持ちが湧き上がる。
 会えない時間が 愛育てるのさ 目をつぶれば君がいる。
 とは言うものの、会えないと判ると余計に会いたくなって来てしまうものでもある。

「本当に、ずるい男だな……そなたは。私の心を簡単に揺さぶるくせに、自分は飄々と、糸の切れた
風船のように……」

 愛しさが裏返って段々腹が立ってくる。
 なんとなく乱暴にベッドに腰を落としたりしてみる。そんなことで気が晴れるわけではないが。
 とりあえずすぐに戻るのも癪に障る。せめて一目会って文句の一つも言ってやらねばなるまい。
 さっきは文句のいえた義理ではないなんて思っていたはずだが、乙女心は複雑怪奇。

 ふと、ベッドに投げ出されたジャケットが眼に入る。

「まったく脱ぎ散らかしおって、仕方の無い奴だ」

 ふ、と軽く笑い、ジャケットを手繰り寄せ手に取る。軽くはたいてしわを伸ばし、さてどうしよう……と
思ったときに、ふと好奇心に駆られた。

「……かまわぬ……よな?」

 誰もいない部屋に聞いてみる。
 べつに何も、いかがわしいことをするわけではない。ないはずだ。だと言うのになぜか、妙に緊張する。
 早まる鼓動を意識しつつも、武のジャケットに袖を通していく。

「ほう……やはり、大きいな……」

 冥夜自身も女性としては小柄な方ではない。それでもやはり丈は腿まで届くし、手も袖から出きらず半分
隠れてしまっている。
 
 男、なのだな……と、思う。
 普段はどこか子供っぽくて頼りないのに、いざと言う時にはグイグイと周囲を引っ張っていってしまう。
 守りたくなる母性本能と、頼ってしまいたくなる依存性の両方をつついてくるのだ。しかも基本的に
女性に優しいときている。性質が悪いことこの上ない。
 207小隊内で私がどれほどやきもきしたことか、あの男はまったく解っていないであろう。
 A-01部隊に配属された今現在でも、あまり楽観視していると危ない気がしないでもないし、しかも範囲が
広がっている。中でも涼宮あたりは結構怪しいのではないかとチェックしていたりする。あれは、一歩間違
えれば自分の姉の良人にでさえ横恋慕してぶつかっていきかねなさそうに思えるのだ。
 速瀬中尉も別な方向性で危険かもしれない。聞くところによると、涼宮中尉と同じ男性を取り合ってい
るという話だ。その話のこじれ方によっては、タケルの方に牙が向く可能性があるのではないかと思う。
 む。なにか思考がおかしな方向へ向かっている気がする。少し修正するべきか。

 しかしまぁ、伊隅大尉の言うとおり、そんな男に惚れる女も悪いのか。 でも、それではなんとも面白
くない。自分ばかりが一方的にべた惚れしているなんて、悔しいではないか。
 面白くないのでそのままベッドに倒れこんでまくらに突っ伏したりしてみる。モチロンそんなことをしても
気が晴れるわけでは……

「む……」

 タケルの匂いだ。
 ここは武の部屋、武のベッドの上。そして武のまくらに顔をうずめているのだから当然と言えば当然の
ことではある。しかも武のジャケットまで羽織っているのだ。これで榊の匂いでもしてこようものなら、武は
痛覚をもって生まれたことを後悔する、程度ではすまさない自信がある。

 もちろん、そんな事はありえないと信じている。 信じて、いる。

 こうしてタケルの匂いに包まれていると、武自身に包み込まれているような安心感が沸いてくる。
 なんとなくムシャクシャしていた気持ちが、ゆっくりと溶けていく。そんな自分が滑稽で、でもなんだか
幸せで、思わず笑みがこぼれた。

 好きだ、タケル。愛している。

 こんな荒んだ世界でなければ、私たちは出会えなかったのであろうか。できればどんな世界であっても
そなたと出会って、そして添い遂げたいと思うのは贅沢なのであろうか。
 そなたとは、絶対運命で繋がっていると信じたい。
 もはや存在の理由が消えてしまったこの身だが、そなたと在ることが今の私の存在理由だと、胸を張って言える。

 愛している。タケル……。

 頭がぼぅっとして来る。
 なんだか体が熱い。
 腹の下の方で、何かがくすぶっている。
 ああ、この感覚は以前にも体験している。訓練兵時代、まだ武と結ばれる以前に。
 あの時はこの感覚をもてあまし、行為の後に激しく自己嫌悪に陥ったものだった。
 今ならこれがどういうものなのか解かる。
 愛されたいという欲求。女としての本能。タケルが、欲しい。
 
 無意識に太腿の付け根に手が伸びる。ぐっと押し込むとズボン越しだというのに、強い快感が体を走り抜ける。
 
「んっ……」

 声が漏れた。ここが自分の部屋ではないことを思い出す。いつ部屋の主が戻るかわからない。ぞくりと、背中を
得体の知れない何かが走る。体は止まらない。

「ん……ふ、ん……」

 ズボン越しの刺激では物足りなくなり、ベルトに手がかかる。ズボンを開く。
 下着の上からそこに触れると、熱く、そして潤ってきているのが自分でわかった。

「タケル、そなたが……欲しいのだ。 早く戻ってきて、私をこんな浅ましい女にした責任を、とれ……」

 うわ言の様につぶやき、手がショーツの中に進入していく。
 濡れそぼった秘所に指を添える。少し指をその溝に這わせただけでくちゅっという卑猥な音がする。
 快感を引き出そうと指が蠢く。

「ふぁ……ん……ふ、あ……はぁ……」

 空いている左手が、乳房をつかむ。こういった行為になれていない故か、ゆっくりと円を描くように動く。
 その緩い動きがさらに敏感さを増大させていく。先端がもう痛いほど硬くなっているのを自覚する。
 朦朧とした意識が次の行為を求めているが、それは今はかなわない。

「んぅ……は、あん……タケル……」

 愛しいものの名を呼ぶ。早く、そなたの手で触れて欲しいと。
 硬くとがった乳首に触れると、びりっと全身に電気が走ったような錯覚におちいった。

「うあぁっ……タ、ケル……タケルゥ……」

 頂点へ頂点へと両の手の動きが加速していく。右手が潜り込んだ先からは更に激しく粘液質な音が響く。

「はっ、あ、あふ、あ、あ、あうぅ、んんっ」 

 もっとタケルを感じたいと、ジャケットの襟元を手繰り寄せ、その残り香を深く、深く吸い込む。
 それが、強烈な快楽を導いた。絶頂に向けて一気に登りつめる。

「ふあっ、ああああっ タ、ケル……!」

「まーったく、夕呼先生もいつまでも人使い粗いよなぁ……」

 部屋の主がご帰還した。
 目が合った。

「――――――――――っ!!」

 ぞくぞくぞくっと、戦慄にも似た激しい快感がつま先から頭の天辺まで駆け巡った。









 訳がわからない。
 自分は夕呼先生に呼ばれてオルタネイティブ4の今後についての検討をしに行き、さんざんくそみそに扱わ
れた後、霞としばらく話して、くたびれた体を引きずって「自分の部屋」に戻ってきたはずだ。
 何で冥夜がここに? いや、冥夜がいること自体はさして不思議はない。こんな俺を好きになってくれた
大事な女性だし、この部屋で二人で朝を向かえる事だって少なくはないしな。それはいい、それはいいんだ。
しかし、なぜベッドの上で、おそらくアレは脱いでいった俺のジャケットを着ていて、ズボンは脱いでベッド
の隅におしやられていて、下着は腿まで降りていて、その、なんだ、大事な部分を手で抑えながら、ちょっと
潤んだ瞳で息遣い荒く呆然とこっちを見ているんだ?あれか?部屋に来たはいいけど、何だか寒くて俺のジャ
ケットを羽織ったんだけど下半身は暑くなって脱いじゃったのか?下着まで?いやいやいや、ちょっとまてち
ょっとまて。冷静になれ。冷静に。そうだ、そういえば散々こき使われて喉が渇いたな。PXで何か買ってくる
べきだったか。いや、それは違うな。うん、違う。今この場で考えるべきことじゃあない。じゃあ何を考える
んだっけ?ああ、そうだ、冥夜だ。可愛いよな、ウン。愛してるぞ冥夜。で、冥夜はここで何をしてるんだ?
そうだ、本人に聞けばいいんだよな。うん、そうだ、そうしよう。

ここまで思考時間3秒程。高速思考は良いが元々混乱している頭ではまともな推測が出来るわけがあるはず
もない。結局は「訳がわからないから聞いてみよう」という特にどうと言うことも無い解決策で落ち着いただけ
だった。

「あー……冥夜?」

「あ……あ……」

 声をかけたと同時に、硬直が解けた冥夜の真っ赤な顔から、ぽろぽろと涙がこぼれおちた。

「う……うぅ……うぁ」

「うわ、ちょっ、なん、ええ!?」

 訳がわからないまま武は、女の子座りで顔を隠して泣き出した冥夜に駆け寄った。








「うぐ……ぐす……」

 武の胸にしがみついてまだ少しぐずっている冥夜を、背中をなでてあやす。
 さすがにもう、ベッドに着いた染みや、まとわりつく匂いで、冥夜が何をしていたのかは察していた。
 しかし、なんと声をかけていいものやら全然わからない。当たり前だ。どこの誰が他人の自慰に遭遇した
時のことなど考えているだろうか。これが男だったらまだ冗談で済むところかもしれないが。女の子、しかも
この、こういったこととは一番関わりなさそうな冥夜なのである。

「すん……すん……」

「落ち着いたか……?」

「ん……」

 小さく、こくんと頷く冥夜。
 どうでもいいが、いまだ冥夜は下半身すっぽんぽんな訳で、着たままの武のジャケットの裾から綺麗な
お尻が丸見えなんですが。とりあえずできる限り意識からはずすことにする。

「すまぬ……幻滅したであろう……このような……」

「いや……まぁ、その、なんだ。幻滅なんかしないし……別に、人としてそんな特別なことでもないだろう?」

「そう……なのか? しかし、よりにもよってそなたの部屋でなど……」

「まぁ、場所は置いておいて、女の子のことはさすがによくわから無いけど、男の場合はこんなんするのは
しょっちゅうだしな……」

「そなたも……するのか……?」

「う。そうストレートに聞かれると答えにくいもんがあるが……まぁ、な。 あれだ、自慰行為ってのはイマ
ジネーションで遊ぶ、動物の中でも人間しかしない高等な遊びなんだってよ」

「ぷ、なんだそれは」

「いや、なんかの本で読んだんだけどな」

 まだ涙で濡れてはいるが、とりあえず笑顔が出たことで武も一安心する。

「とりあえず、顔、ふこうな」

 ハンカチを取り出して冥夜の顔をぬぐってやる。

「む。子供扱い、するでない」

 むくれて言う冥夜だが、別段拒否するそぶりも無く武にされるがままに任せる。
 目元から頬をやさしくぬぐっていき、小さな口の周りから唇に触れたとき、少しその感触にどきりとする。
 一瞬、冥夜と目が合い、唇に触れたまま少しの間見つめあうようになった。

「はい、おわりっと」

「ふむ。ご苦労であったな」

「なに言ってやがる」

 お互い笑顔で言い合う。

「タケル?」

「ん、なんだ?」

「その、な。寂しかったのだ……ぞ?」

「へ?」

「そなたが特殊な立場で忙しいのはわかっているつもりだ。でも、な。そなたのいないこの部屋は寂しかったのだ」

 顔を赤らめながら俯き気味に、少し上目遣いで冥夜が言う。

「そうか……ごめんな……」

「い、いや、謝ることは無いのだ。仕方のないことなのだしな。ただ……な」

「ああ」

「その、な……寂しがらせた分……責任を、取れ」

 一瞬きょとんとする武。
 が、すぐに冥夜の言いたいことを理解すると苦笑交じりに答える。

「わかりました。仰せのままに、姫様」

「う、うむ。く、くるしゅうないぞ」

 二人の影がゆっくりと重なっていく……こんな世界だからこそ大切な、ちっぽけな二人の世界へと進むために。






 END
素人SS第2弾。
お目汚しで恐れ入りまする〜m(_ _)m

とりあえず私の脳内で展開されているオルタネイティブ冥夜ルートの一場面みたいな感じです。
ラフ絵の解説の方でも何度か語ってるように、私の中の冥夜はタケルとくっついてからは結構甘えんぼですからw
エロ〜ス表現を入れてしまいましたが、難しいですね、やっぱり。
入れるかどうかは迷ったんですが、入れないと最後の方が弱くなっちゃうなぁと思ったんでなんとか入れてみました。