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AMBACについて

前回の予告通り今回はAMBACについてです。
正直言ってこれについては語るのは怖いのですが(^^;

単刀直入に言ってしまえば私はAMBACを否定しています。
AMBACには重大な欠点があるのです。

AMBACについては前回説明しました。
もう一度おさらいしておくと、腕なり脚なり、機体質量の一部を高速(末端加速100G!)もの速度で移動させ、その反作用で機体の姿勢を制御するというものです。
簡単にいえば腕(脚)を振る反動で機体の向きを変えるわけです。
作用と反作用の簡単な原理ですね。
実に30年もの間このシステムを拠り所にMSの脚の存在意義が語られていた訳です。

しかし、AMBACには問題があります。
まず問題なのは、移動させている質量が機体の一部であること。
勘違いされている方もいらっしゃるようですが、大前提としてAMBACは推進力にはなりません。
これはその質量を切り離すものではありませんので、その質量を本体で停止させなければならないからです。
これは機体の姿勢制御(回転力)においても同じです。
機体の一部の質量をどんなに素早く動かそうとも、その速度は本体側にもかかりますから、結果的には動いた部位の質量分胴体が反対方向へ移動して相殺して終わりです。
相殺し合っていますので、機体がその方向へ回転し続けることはありません。
そしてまず間違いなく稼働させた部位よりもそれ以外の質量の方が大きいので、結果として動かした部位の移動距離ほど本体そのものは移動することはありません。
更に言えば、その稼動した部位を正位置に戻すと本体も元の位置に戻ります。
真空無重力である宇宙空間では機体本体をその角度に留めおいてくれる摩擦は存在しないのです。

このような理由から、MSの腕や脚の可動範囲を考慮に入れると、AMBAC(可動肢の反作用)では機体を90度回転させることさえ難しいでしょう。
(両腕をぐるぐる回し続ける、とかなら勿論可能ですが、それなら機体内にフライホイールを搭載した方がマシです。)
さて、これが本当に戦闘中の姿勢制御に役に立つのでしょうか?
以上の理由から私はAMBACを否定しています。
これを読まれたあなたはどう思われるでしょうか。

ところで完全に横道に逸れた与太話をひとつ。
ボトムズのビデオシリーズ「赫奕たる異端」第一話において、宇宙ステーションの崩壊によりキリコの乗った宇宙用装備無しのスコープドッグが船外に流され漂うシーンがあるのですが、その際、何も無い空間に向かってアームパンチを放つことによりその反動でステーションへ戻る描写があります。
これはAMBACの拡大解釈ともいえるものですが、上に述べたように、射出された質量体(ここではアームパンチの伸縮部)を本体で「引き止めている」為に、アームパンチが伸び切った位置から機体がそれ以上移動することはありません。
腕を戻せば機体は元の位置に戻ります。

コメント (8)

なくちゃ:

私はあまり後から追加された考察とか詳しくない私が通りますよ。
もしAMBACがMSの制御に利用されてた場合ジオングの技術者が あの有名な台詞を言うのは合点がいきませんよね。
ってことで私はAMBACの存在に疑問です。

新庄聡美:

>なくちゃさん
全くもってその通りですね。
「足なんて飾りですよ!偉い人にはそれがわからんのです!」
モビルスーツでも機能を特化させるとモビルアーマーのようになる典型例ですね。
あと2つの典型例はガンタンクとゾック(笑)

yue:

このお話の内容だとすると、
AMBACを映像的で再現しようと思うと非常に判りずらいですね。

なにせ武器を相手に向けるだけで姿勢変わっちゃうわけだから
宇宙空間のシーンだとMSはなにかするたびに、四肢をバタバタ
動かしてなきゃいけない事に。

そんなことやるなら、ガスかなんか噴き出して
止める方が 楽ちんですね

映像敵に考えると、止めたい方向に足を向けて ぶわーと
スラスター吹いた方がかっこいいしね。w


新庄聡美:

>yueさん
映像では非常にわかりにくいでしょうね〜。
上にも書きましたが、何しろ言うほど姿勢が変わらないので。
あと、AMBACでは元々の設定からして機体のベクトルを変えることはできないので、移動速度や移動方向を変える時にはどうしてもスラスターを使用する必要があります。
あくまで機体の向きを変えるだけの機能だったのですが、それについてもこのエントリーで書いた通り有効性には疑問が残ります。

映像的には、宇宙空間でメインスラスター吹きっぱなしとかは当然のようにやりますしねー。
その方がカッコイイし、わかりやすいし(笑)

yuki!:

Zの頃はMSにもスラスターがバンバン付き始める一方、バインダーなんて物が出てきたりして、あれだけの時間があっても考え方が皆バラバラだったんだと思うとおかしいですねw。30年たった今も決して意思統一してるとはいえませんがww。統一する必要もありませんがwww。

新庄聡美:

>yuki!さん
私は昔の機体はスラスターが隠されていたかアニメ設定画では省略されるほど目立たなかったのだろうと思っているので、Z時代の機体は大きな技術革新のないままスラスターの出力優先になって隠せないほど大型化したのではないかと考えています。

バインダーですが、それを持っている機体はリック・ディアスや百式などのAEUG系の一部の機体だけですし、どちらも一応は内部にスラスターを組み込んではありますね。
ガンダム世界におけるバインダーはスラスターとシールドが一体化したものを指すと考えた方が自然かもしれません。

むしろZ時代の機体にはスタビライザーが異常に増えてますね。
そのいずれにもスラスターが内蔵されているので、こちらは姿勢制御の効果を高める為に、機体重心からなるべく離れた位置に出力の大きいスラスターを比較的自由角度に配置するのが目的だったのではないかと思っています。

設計理論にもいろいろな発想はあるし、その時代のトレンドはありますから、それぞれの機体がどういう発想で作られているかを考えていけると面白いですね。

やのしん:

速度の概念が、抜けてますよ。運動量は、速度の二乗×質量ですから、質量の小さな手足でも、高速で振り回せば、その速度の二乗倍のエネルギーを持ちますから、
反作用もそれなりに大きくなります。同様にアームパンチも、火薬で打ち出した拳と、スプリングで戻るので発生する運動エネルギー、及び反作用の差があるので、後退します。尚、照準を合わせる際に発生する反作用は、左手で相殺してます。

新庄聡美:

>やのしんさん
運動量と運動エネルギーについてが少々混ざってしまっているようですね。
私の教養も怪しく、あらためて勉強が必要であると痛感しておりますがお付き合い下さい。
運動エネルギーで話すとまたかなりややこしくなるので簡単に運動量で話させていただきます。

例えば腕を動かす場合、腕と本体側に同じだけの運動量がかかっています。
動かせる距離と時間からその力積は微々たるもので、速度がいくら速くてもそれにかけられる時間が極めて短いので運動量はそれほど大きくはなっていない筈です。
腕全体を移動させているわけではないですし、直線運動もしません。もっとも移動距離が大きいのは拳部分ですし、腕全体で考えても本体側とでは質量が圧倒的に異なりますから、反作用で得られる速度は更に小さいものにしかなりません。
ただ、腕を動かす軌跡は変えられるので、その辺りの制御が上手くできれば機体の角度を僅かに変えたり泳ぐことはできるのかもしれませんが……、それが効率のいいこととはとても思えないのですが。

アームパンチの記述については少々勘違いされているようです。
腕が伸びることと、腕を引き戻すことは別々の運動です。
火薬で打ち出した拳の持つ運動量が本体側に反作用として働き、それによって本体も後退します。ここまでは良いのですが問題はここからで、拳は本体と繋がっているのですから、拳が伸び切った瞬間に本体側が得ていた運動量は拳が伸びる運動量を打ち消すことに使い切ります。腕が伸び切ったここで本体の後退は止まるのです。
その後腕を定位置に戻す為に引き戻すわけですが、その腕の後退する運動量は同じように反作用としてそのまま本体にもかかりますから、本体も元の位置に戻るというわけです。
移動する距離は変わらないので力積により速度の分は時間で打ち消しです。

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2011年08月29日 23:19に投稿されたエントリーのページです。

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